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大阪高等裁判所 昭和36年(う)1464号 判決 1961年12月20日

被告人 根来清一 外一名

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

(弁護人の)控訴趣意第二点について

論旨は、被告人朝子光雄は、選挙運動者ではなく、単なる選挙労務者であつて、自らもそのように信じていて、その労務賃として、本件三回にわたる計一〇、〇〇〇円の交付を受けたものであるに拘らず、原判決が、同被告人は候補者中野武雄の選挙運動者であつてその選挙運動の報酬として同金員の供与を受けたものと認定したのは、事実誤認であり、同被告人は無罪である、というのである。

よつて案ずるに、選挙運動者とは、一定の選挙につき一定の議員候補者を当選せしむべく、投票を得若しくは得しむるにつき直接又は間接に必要且つ有利なる周旋、勧誘若しくは誘導その他諸般の行為を為す者をいうのであつて、選挙労務者が労務を提供してその対価を得ることを直接の目的とするのに対し、選挙運動者の直接の目的はこれと異なり、その候補者の当選であるところ、原判決挙示の証拠によれば、被告人朝子光雄は、本件選挙に際しては、候補者中野武雄の当選を目的としてその選挙事務に従事して会場係となり、個人演説会の日程表の作成、その会場借入れ交渉、選挙管理委員会への届出等の事務を分担したのであつて、時にはポスター張り等をしたこともあるにしても同被告人は選挙運動者として取り扱われるべきもので、同被告人自身も選挙運動者たることを自覚しており、かつ本件金員には同被告人の右選挙運動に対する報酬の趣旨も含まれていることを知りながら、同金員の供与を受けたことが認められるのである。したがつて、原判決には所論のような事実誤認はなく、論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 奥戸新三 塩田宇三郎 竹沢喜代治)

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